大判例

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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)3891号 判決 1989年7月17日

控訴人

西森厳

控訴人

山口敏雄

控訴人

水野正美

控訴人

吉岡正明

右控訴人四名訴訟代理人弁護士

葉山岳夫

菅野泰

清井礼司

内藤隆

一瀬敬一郎

被控訴人

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

西迪雄

右訴訟復代理人弁護士

富田美栄子

右代理人

室伏仁

鈴木寛

矢野邦彦

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人ら代理人は、「一 原判決を取り消す。二 控訴人らと被控訴人との間に期限の定めのない雇用関係が存在することを確認する。三 被控訴人は、控訴人らに対し、原判決別紙債権目録(一)記載の各金員及びこれらに対する昭和五六年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員、並びに、昭和五六年一〇月から毎月二〇日限り原判決別紙債権目録(二)記載の金員及びこれらに対する各弁済期の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。四 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに第三項につき仮執行宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次の1及び2の主張を付加するほか、原判決事実摘示(同判決三丁裏末行「(以下「公労法」という」。)を「(昭和六一年法律第九三号による改正前の公共企業体等労働関係法をいう。以下「公労法」という)。」に、四丁裏四行目「動労千葉組合員の制止に際し」を「動労千葉組合員の行動を制止するに際し」に、九丁表二行目「公労委」を「公労委(公労法に基づく公共企業体等労働委員会をいう。以下同じ。)に、同所七行目「3(三)」を「3(一)(3)」に、同丁裏一〇行目「被告は」から同一一行目「一環であり」までを「被告は従来から動労千葉を敵視しているものであり、今回の処分は動労千葉を弱体化しその活動力、組織力を低下させる目的でなされたものであるから」に、一二丁裏二行目「後記(四)」を「後記(4)」に、一三丁表四行目から七行目までを「本件輸送については労働協約は締結されていないから、動労千葉組合員には、本件輸送に従事する義務が存しない。本件争議行為は義務なきことを強制強要しようとする被告に対する抗議であり、正当な行為である。」に、一四丁裏七行目「課してきた」を「課することにあった」に、原審記録書証目録中の乙第六五号証の一、二の標目等の欄中「現認者渡辺昭平」を「現認者六五の一は渡辺昭平、六五の二は綾部忠雄」に改める。)及び当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

1  公労法一七条一項の違憲性についての控訴人らの主張

昭和六三年四月一日をもって日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)は分割、民営化され、それまでの国鉄の業務は、そのまま何の異同もなくその職員につき争議権の認められている新会社の業務となっているのであり、このことは、国鉄の事業ないしその職員の職務の公共性を理由として、その職員の争議行為を禁止しなければならない必然性がなかったことを端的に示すものである。すなわち、国鉄の民営化に当たっては、国鉄の公共性についての見直し、評価替えがされ、その公共性を否定することによって民営化という結論が導きだされたものであり、またその過程において、国鉄に関しては公労法一七条一項を合憲とする昭和五二年五月四日の最高裁判所大法廷判決(最高裁判所刑事裁判例集三一巻一八二ページ等)がその根拠とした「非現業公務員同様の身分保証がある」こと、「職務に公共性がある」こと、「非現業職員と同様の勤務条件法定主義がとられている」こと、「争議行為禁止にかわる代償措置がある」ことに関し、右判決が前提とした諸事実とは全く異なる実態が明らかにされたので、少なくとも国鉄職員に関する限り、右の実態に沿って公労法一七条一項の合憲性の見直しをし、これを違憲とすべきである。

2  右控訴人らの主張に対する被控訴人の主張

公労法一七条一項の規定が違憲でないことは、国鉄が分割民営化され、その鉄道輸送業務を引き継いだ新会社の職員が争議権を有することによって何ら左右されるものではない。

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がないので、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次の二及び三の説示を付加するほか、以下のとおり補正した原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

原判決一九丁裏末行から二〇丁表初行にかけて「(証拠略)」とあるのを「(証拠略)」に、二二丁裏初行「燃料反対闘争」を「燃料輸送反対闘争」に、三〇丁裏九、一〇行目「動労本部組合員を」を「動労本部組合員と」に、三三丁裏二行目から三四丁表六行目までを「しかしながら、(証拠略)及び弁論の全趣旨によると、本件輸送の客体であるジェット燃料は、ジェットA1であって貨物品目分類表上の灯油として扱われるものであり、危険品扱いとなるものではないことが認められるから、本件輸送が特に沿線住民に危険をもたらす行為であるということはできず、また、線見訓練も列車の運転に危険を及ぼすものでないことは前示認定のとおりである上、被告は、前示のように動労千葉と団交を重ね、本件ジェット燃料輸送延長の必要性を説明し協力を求めてきたのであるから、原告らの本件争議行為の動機、目的の正当性に関する前記の主張は、理由のないものである。」に改め、三四丁裏初行「全証拠によっても」を削り、同所六行目「考えられるし」を「認められ」に、同所八、九行目「原告らには」から三五丁表六行目までを「原告ら動労千葉組合員らには、本件輸送に関し労働義務があるというべきであるから、特に輸送延長のための労働協約が締結されていないからといってこれが就労を拒否することは許されないものというべきである。」に、三六丁表九行目「スト指令を伝達し」から同所末行までを「、線見訓練阻止闘争に際しては、原告西森、吉岡は佐倉駅に、原告水野、山口は成田駅に、輸送反対闘争に際しては、原告西森は指名ストの拠点の一つとされた千葉駅に、原告吉岡は津田沼駅に、原告水野は館山駅に、原告山口は勝浦駅にそれぞれ赴き、本件争議行為に関する本部の指示を伝達し、支部組合員の争議行為の指導」に、三七丁裏五行目「他組合の」から同所末行「認められるのであるから」までを「その違法性は極めて強いものであることによるものであって、殊に本件争議行為に関する処分において右争議に加わった動労本部組合員及び国労組合員らが処分を受けなかったのは、右の者らは動労千葉が中心となって企図し実行した一連の争議行為の一部分に加功したにすぎない事情を酌んだものと認められるから」に、三八丁裏初行「停止処分」を「停職処分」に改める。

二  本件ジェット燃料輸送延長については労働協約が締結されていないので、動労千葉の組合員には本件ジェット燃料輸送に従事する義務がないという控訴人らの主張が理由のないことは、原判決理由説示のとおりであるが、なお敷衍するに、労働協約は個々の労働契約における労働条件を画一的に規制することを目的として労働組合と使用者又はその団体との間に締結されるものであり、これが締結された場合には、使用者及び組合員の双方はこれに拘束されるのは当然であるが、労働協約が締結されていない場合においても、労働者は個々の労働契約により合意された範囲内において使用者に対して労務供給の義務を負い、使用者はその労務の給付を請求しこれにつき指揮命令することができるのは当然である。そして労働者はその指揮命令が労働慣行に反し、あるいは社会通念上著しく不当であるなど、労使間の信義則に反するような特別の事情がない限り、これに応ずる義務があり、単に労働協約が締結されていない一事をもって、使用者の指揮命令を拒むことはできないものというべきである。

本件においては、国鉄と動労千葉との間には、両者の数次にわたる団体交渉にも拘わらず、ジェット燃料輸送延長についての労働協約が締結されるには至らなかったのであるが、引用の原判決認定のように、本件ジェット燃料の輸送は、国鉄の通常の業務に属し特別の危険を伴うものでないことは明らかであり、したがって、その輸送業務は動労千葉所属の個々の組合員との間で締結された労働契約による就労義務の範囲内のものであることは論を待たないものというべきであるから、国鉄が動労千葉所属の組合員に対して右燃料輸送の業務に従事すべきことを命じたとしても労働契約の範囲を逸脱するものではなく、右命令が信義則に反するなど同命令を違法、不当とすべき特別の事情が存すると認めるに足りる証拠もない。この点に関する控訴人らの主張は採用の限りではない。

三  控訴人らは、国鉄の分割民営化を根拠にして、少なくとも国鉄に関しては公労法一七条一項を合憲とする判例は見直されるべきであると主張する。確かに、国鉄の分割民営化後の新会社の職員には争議権が認められるなど、その職員の法的地位に変化の生じたことは明らかであるが、これらは法律による制度改正の結果であり、国鉄による鉄道事業等の公共性が減少ないし消滅したことによるものではないから、国鉄の鉄道事業等が民間会社に引き継がれたことは、国鉄職員に関して公労法一七条一項を合憲とする判断に影響を及ぼすものではない。控訴人らの右主張は採用の限りではない。

四  よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第九三条第一項本文及び第八九条に従い、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 安國種彦 裁判官 清水湛 裁判官 安齋隆)

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